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実は以前にもいちど、この地を車で訪れたことがある。
ちょうどお盆のときで、宿はどこも満杯だった。宿探しだけで夜になり、とうとう沼を見ることもできずに引き返した苦い思い出がある。
そのとき幾度も仰ぎみた、磐梯山の異様なというか、それゆえに美しい姿だけは強く印象に残っていた。
あれから何年がたっているだろう。忘れるほどの年月の間にも、その山は変わらずにあった。
梅雨空のせいで山の全容は見られなかったが、大きく崩落した山の傷跡が、ぼくの古い記憶にぴったり合致して懐かしかった。さらに今回はひとつだけだが、沼の大気と静寂と匂いまでも吸収できて、東北という国の山と水の記憶の層が厚くなった。

やはり、そこに磐梯山という火山があっての、五色沼の存在だった。
雲の下で、沼は控えめに色を貯えていた。さらに太陽の光が注がれれば、どんな色あいが浮かび上がってくるのだろうか。あれこれ想像しているうちに、心のなかの沼の色は五色に変幻しつづけるのだった。